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  • ニューギンライト

    ニューギンライト

    2025年1月

    「趣がある」と評してくれたこと今もわたしを少し象る

    最新号プラスチックの装甲のそれ自体への傷みが目立つ

    全うに感じられない気がしても重ねた脚を解かないまま

    向ける背に新聞捲る音を浴び文字列に入る時間をかける

    音だけのくしゃみが消える脱衣所の四隅を巣食う黴のつく息

    出てきた後今臭いぞと言った父いや確かにと改める僕

    階段を追い越していく数十の自分の跡を汗拭き見遣る

    配膳猫から何らかを受け取るときみんな等しく情けなくなる

    プラ製の蓮華の自重でネギ集めこの一食への態度を示す

    風呂の蓋を閉めただけの鍾乳洞友人の背もこんなに近く


    水上に開く東屋に籠もりたる香りは時も光も越える

    尿のまだ黄色い僕はこのままじゃダサい開いて透明を待て

    包丁で無塩ナッツを刻めると思ってできて感じた気持ち

    毛を抜く度こんなとこまでよくもまあ埋まっていたのといつも嬉しい

    起き抜けの閾値を超えた能力の発露の証ではない鼻血

    雨あがり洗濯物の水分に含まれる春が夏へと変わる

    薄暗の強い麻酔に半目開け譫言を置く子どもに還る

    十六個ここから見える開くドア怪しい部屋をひとつに絞る

    眼はなにかをしっかり睨みつけるようでもあり相手をさがしさまよう

    欲望をゆくゆく暴き見晴るかすもっともっとと発する元を


    やっぱり下校中には前など見ず手遊びなどをし続けている

    同窓の傘をタオルで叩いたらぴたりと止んで笑う夕立

    後楽園東京ドームシティ前ここは広いし悠々飲める

    芳醇に鼻腔にへばりつく牛舎いまとむかしをぷさり貫く

    茹でたての〆られ切った素麺を薬味と共にみんなで食べる

    はじまってから本当にはじまったことがわかって最後までやる

    膀胱も内臓も寝なね俺も寝る明日からもまた宜しく頼む

    はじまるまではじまらないでいてほしい境目はなく今にまで至る

    紡錘の雨がドツドツ降りてくる垂直にかつ途切れもせずに

    アボカドの種に踵を突き落とし捻くり上げてまた振落とせ


    二十年前の自分の声の色髪の手触り目にしたものたち

    二階奥薄ベニヤ床の物干し場光が遊ぶ埃が遊ぶ

    起き上がり午前三時のクラッカー魚肉ソーセージで眠れるか

    イサキの眼黒目が丸く血抜きの際あらゆることに及ぶ考え

    厳島神社は「驚き・憤りを感じています」と話しています

    鬼蜘蛛の巣の弾力を跳ね返すわたしの髪の艶の程知る

    豚の血か歯肉の腫れかフロスより聞き馴染みない鳥の鳴き方

    今日産まれたくらいの蜘蛛の即興の糸もしっかり機能している

    下足天に既に付いてる生卵追加したのと共にかき込む

    シンク横に立てて干してるスプーンに一度戻したワカメの乾く


    繋がりをそうではないと訴える破片を送る無線スピーカー

    畳の上に埃の舞うのを見るうちに熱帯びる背とスチームアイロン

    ドキンちゃんくらい一気に顔染めたい大きすぎる恥怒りや愛や

    母親への返事の怒気が強すぎる娘の服の黒のグラデーション

    流水と湯気越しにある店員の会話三十日の蕎麦丼セット

    幾百の試行の末に訪れる滞りなきカバー取り付け

    シート製の曇りガラスは雪のようで茶色いトドが背を翻す

    騒がしさと暗さを前に一服しただ眺めている方がよろしい

    来月に店を辞めると耳にして行って聞いたら「言うな」と言われた

    鈍色に光った痕のそこら辺なるたけ細い道で帰るよ