まだともう

もう光らないネオンサインが陽を浴びるどこに出しても恥ずかしくない

重ねたり何度振ろうが内容は混ざり合わないけど燃える本

ほんとうに欲しいものだけ手に入れた背中ばかりが遺されていく

水の目に映った首のやわらかい筋 見て私 ため息少し

感じ取りあ、とかおおとか言いながら集まり、だよね、と確認してる

角が取れ丸みを帯びて毛羽立ってくるりと尻尾を丸める年齢

今日という今日の最後に聴く曲が『揚げたて唐揚げ』でもいい気もする

薄紅が充電されて上がりつつ単独の鳥、焦らなくていい

霊感のようなあらゆる考えが駆ける自由は制約のよう

ただ歩いているだけなのに鳩は逃げ車は道を譲ってくれる


未だ「わたし」と切り落とされず笑ってる子どもと犬は訳なく笑う

五年振りに点灯したマジック、長いまつ毛の頬が火照って

鳥たちのサンクチュアリを背に負ってスモーキンする老カウボーイ

凪の屋上、泣く君のためなす術もなく凧揚げて風を起こそう

彼は胸に刻んだその詩の最後だけ歪ませ青へペダルを踏割る

予想された爆発は起きなかったが陶磁器の羽の欠片を拾う

もらった物、全て生きてる内になくしてしまう人が確かに居た

大写しされてもサンドワームには未だ音しか感覚できず

混んでいる待合室に入るなり「賑やかだな」と言った五歳児

眠い目にやさしい朝の川に映る世界の街の家の抽象


駅前のコンビニの前に「無」があって改札通るまでに忘れる

すれ違う目を伏せた女性の悩みがすっとわかる気がしただけ

蕎麦を食いながら何かを呟いてる宇宙と同じくらい「知らない」

いつの間にか降り出した雨か、魚の息か、どちらかどれほど見てもしらない

ゆくゆくは夏には麻の冬は綿のふくろを被るだけになりたい

イベントでどんな顔して過ごすのが正解なのかわかる日が来る

一本五百円もする一本の水を首筋に当て体温下げる

玄関に積み上げられた古タイヤどこにもいけず子供が泣いてる

意味という言葉が意味を持っていないことに気づいた煙草が旨い

「答え」なく正面玄関で待ち合わせお辞儀を重ねて家に帰ろう


夢なんていつもみられる水の月ではどこにでも座っていられる

むせかえるほどの寓話とサウダージ 判決を待つ鳥が鳴いてる

公園に尻の根つけてストレッチするまだ何も起こりはしない

感覚は別段特に迸らず、ゆけゆるやかなポジティビティー

もう1ミリも急がないぞと急に誓う表参道のB5近くで

全ての叡智のようなオレンジ色をしてマックスマーラのベージュ拡がる

あの変なマジック帽をかぶる人は今日の月蝕をみたのだろうか

長袖でタトゥー隠して沖縄のソバの作り方を学びつつある

前の席の貧乏揺するおじさんを兵士の中に立たせてみたり

喫茶店にしては長すぎるドラムソロが終わってピアノが戻る


焼けて焦げたこのにおいだけを持っていければただそれで全うしたと

寝惚けてる雀のまあるい額をね撫でるとしたら右の小指か

たった二両の山手線が原宿に到着したら笑うだろうな

HOLYとHOLISTICは同じこと誰が為何故鐘は鳴るのか

パーマとPERMANENT は同じことアフロディーテを求めてのこと

朝ぼらけ虹を見ている人たちの背中にぼんやり浮かび上がる虹

朝ぼらけ「もっとみんな」と呼びかける霜柱溶けパーマ上がりつ

一つ一つ臓器がみんな縦に並ぶシステマティックな快感を得る

私の首よラナンキュラスの弛みの分だけもう少し水を通して

大切な引越しの日に植物を買って待ってることができるよ


腹巻をネックウォーマーに見做すとき見えない場所が光を鳴らす

四分の三が同じの彼の名をボタンを縫うかのように摘んだ

決断も突き詰めもせず息継ぎの仕方も知らずに皮膚で歩まん

さようなら何度目の冬、動けるか。動いているか君の迷惑

金輪際正しさとアドバイスなどくれてくれるな透明の君

買ったことない金魚鉢を胸元で質感重みありありと持つ

汗だくのワンピースほど近づいて駅のベンチで寝起きのよいこと

投げ縄のツールで描いたような街眉間の皺を見開き伸ばす

タンカーに乗っていたというおじさんと海沿いの風呂で遠い線観る

たった今私の瞼を裏返し風は私をここに置き去り


金を忘れ金を捨て去る最善の方法はただ金稼ぎにあり

この空気で話をふられたとしても子供の頃の話はできるが

雄弁か寡黙か私の内分泌外に出るたび涙とされる

咲くことをしない蕾にある美学自重に首をへし折るまでの

泡を立て肌の間で滑らせてお湯で流したあとは知らない

オジサンに肩を抱かれて指さされ「何だと思う、猛禽だよ」と

冴え渡る、意識に任せて三叉路の右を選べば焼き鳥の店

アナログな欲望によるデジタルな制圧を突くたった一点

発表の場所を待たれぬ創作の素振りのたびの蜂蜜の風

花を買い手に持ち帰る誇らしい気持ちに彼もあるのだろうか


これほどにまっさらになるはずはなかった誰のためにもならないほどに

どれもこれも扉の方から開いてくる難しいことなんていらない

取りこぼしなく誰ひとり置き去りにせずペテン師の顔を浮かべて

どこにでも向かう必要なんてなく身体のすぐそこ体の温流

水筒を持ち歩く人のパーソナルスペースはただ蛸壺のよう

車中泊する人と犬、朝になる「禁止されてる」とただ告げられる

わたしにも幾つかわけのあるように彼も彼女も事情があって

居酒屋のキレイキレイが水増して何度押そうがとりとめもない

誰からも祝福される恋愛は、今はまだしもいつになるのか

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